
「まさか、うちの社員に限って……」
元刑事として数多くの企業トラブルの相談を受けてきましたが、勤怠の不正に関する相談の第一声は、決まってこの言葉から始まります。しかし、残念ながら勤怠の改ざんは、単なる「サボり」ではありません。それは会社に対する「背任」であり、給与を盗み取る「犯罪」です。
近年、テレワークの普及に伴い、勤怠管理の目は届きにくくなりました。それに比例して、不正の手口も巧妙化しています。
本記事では、探偵事務所の視点から、「勤怠の改ざん(不正打刻・虚偽申告)」の実態、法的リスク、そして企業がとるべき具体的な対処法と証拠の掴み方について解説します。
目次
勤怠の改ざんとは? よくある不正の手口

まず、どのような行為が「勤怠の改ざん」にあたるのか。現場でよく目にする手口は、大きく分けてアナログなものとデジタルなものの2種類に大別されます。
昔ながらの「代理打刻」と「虚偽申告」
タイムカード制の現場で今なお多いのが、遅刻した同僚の代わりにカードを押す「代理打刻」です。また、手書きの日報やExcelでの自己申告制を採用している企業では、実際の退社時間よりも遅い時間を記入し、残業代を水増し請求するケースが後を絶ちません。
テレワーク時代の「見えない不正」
現在、最も調査依頼が増えているのがこの領域です。
「マウスムーバー」の悪用
PCがスリープ状態にならないよう、マウスを自動で動かす装置を使い、業務中を装って外出や睡眠をとる。
中抜けの未申告
勤務時間中に私用で数時間離席しているにもかかわらず、休憩時間を申告せずにフルタイム勤務として計上する。
これらは、「バレなければいい」という軽い気持ちで行われがちですが、会社にとっては莫大な人件費の損失となります。
勤怠改ざんは「犯罪」になる可能性がある

従業員が安易に行う勤怠の改ざんですが、法的に見れば立派な犯罪行為に該当する可能性があります。ここを理解していない従業員があまりにも多いのが実情です。
以下に勤怠の改ざんがどのような犯罪行為に該当するか解説します。
詐欺罪(刑法第246条)
最も適用される可能性が高いのが「詐欺罪」です。 働いていない時間を「働いた」と偽り、会社を騙して給与(残業代など)を受け取る行為は、会社に対する詐欺にあたります。
【ポイント】 10年以下の懲役に処される重大な犯罪です。
私文書偽造罪(刑法第159条など)
タイムカードや出勤簿、業務日報などの書類に虚偽の内容を記入したり、改変したりする行為は、私文書偽造罪やその行使罪に問われる可能性があります。
電磁的記録不正作出・供用罪
デジタル勤怠システムへ不正なデータを入力する行為は、刑法第161条の2「電磁的記録不正作出・供用罪」に該当するケースがあります。
元刑事の視点から言えば、これらは決して「社内の恥」で済ませて良い問題ではありません。悪質な場合は、警察への被害届も視野に入れるべき事案です。
会社が下せる処分の種類と基準

不正が発覚した場合、感情に任せていきなり「クビだ!」と宣告するのは危険です。会社はどのような懲戒処分を下せるのでしょうか。
不当解雇として訴えられないよう、就業規則に基づいた段階的な対応が必要です。
① 戒告・譴責(けんせき)
始末書を提出させ、将来を戒める処分です。初犯や、改ざんの期間・金額が軽微な場合に行われます。
② 減給
労働基準法の制限内(1回の額が平均賃金の1日分の半額を超えない等)で給与を減額します。
③ 出勤停止
一定期間、就労を禁止し、その間の賃金を支給しない処分です。不正が悪質である場合の重い処分となります。
④ 諭旨解雇・懲戒解雇
最も重い処分です。
- 諭旨解雇: 会社が解雇権を行使する前に、本人に退職願の提出を勧告するもの。
- 懲戒解雇: 即時解雇であり、退職金が支払われないケースも多い「極刑」に近いもの。
【重要】懲戒解雇が認められるハードルは高い
過去の判例を見ても、単発の不正打刻だけで即座に懲戒解雇が認められることは稀です。
「長期間にわたり、常習的に行われ、会社への背信性が高い」場合や、「注意指導しても改善が見られない」というプロセスを経て初めて正当性が認められます。
【元刑事が教える】決定的な「証拠」の掴み方
ここが本記事の核心です。 「あいつ、サボっている気がする」という疑い(心証)だけでは、従業員を処分することはできません。 万が一、従業員が「やっていません」とシラを切った場合や、不当解雇で訴えられた場合、会社側が客観的な証拠を提示できなければ負けてしまいます。
では、プロはどうやって証拠を固めるのか。以下の3つの視点で調査を行います。
デジタルフォレンジック(ログ解析)
社用PCやサーバーのログは嘘をつきません。
ログイン・ログオフ時間の照合
勤怠上の退勤時間と、PCのシャットダウン時間に大幅な乖離がないか。
操作ログの確認
勤務時間中に、業務と無関係なサイト閲覧や、長時間の無操作状態がないか。
メール・チャットの送信時間
「残業中」としている時間帯に、誰とも連絡を取っていない、ファイル更新もされていない場合、空残業の疑いが濃厚です。
退室記録との突合
- オフィスの入退室セキュリティログと勤怠打刻の照合。
- 防犯カメラ等の映像と勤怠時間の照合。
素行調査(張り込み・尾行)
これは私たち探偵の専門領域です。特にテレワークや外回りの営業職で効果を発揮します。
- 「自宅で勤務中」の時間帯に、パチンコ店やカフェ、映画館にいないか。
- 営業車を公園に停めて、数時間昼寝をしていないか。
これらを写真や動画として記録し、「○月○日○時○分、勤務中であるはずの対象者は○○に滞在していた」という調査報告書を作成します。これが裁判でも通用する強力な証拠となります。
不正発覚後の具体的な対処ステップ
証拠が揃ったら、以下の手順で冷静に対処を進めてください。
事実関係の整理
証拠資料を時系列にまとめ、不正の期間と損害額(過払い給与額)を算出する。
本人への弁明の機会の付与
いきなり処分通知を出すのではなく、面談を行い、事実確認とともに本人の言い分を聞く(これは法的手続きとして必須です)。
懲戒処分の決定
就業規則に照らし合わせ、適切な処分を決定する。
返還請求
不正に受給した給与や交通費の返還を求める。
再発防止策!不正のできない環境を作る
従業員を疑うのは辛いことですが、「不正ができる隙がある環境」を作っている会社側にも責任の一端はあります。
性善説に依存せず、システムで管理することが、結果として真面目な社員を守ることになります。
生体認証の導入
指紋や顔認証による打刻システムで、代理打刻を物理的に不可能にする。
PC操作監視ツールの導入
業務中のPC稼働状況を可視化するソフトを導入する(※導入時は社員への周知が必要です)。
業務成果の可視化
「時間」ではなく「成果」で評価する制度へシフトする。
探偵による定期調査
監視の目として、探偵の定期調査は有効は非常に有効です。勤怠の不正に限らず、職場内の規律を守るために探偵との顧問契約で社内の不正を予防しましょう。
関連記事:【企業向け】探偵との顧問契約|元刑事が明かす不正調査・企業防衛の活用術と費用相場
まとめ
勤怠の改ざんは、放置すればするほど「やってもバレない」という空気が社内に蔓延し、組織のモラルを崩壊させます。
また、不正を行っている社員に給与を払い続けることは、真面目に働いている他の社員への裏切り行為でもあります。
もし、「特定の社員の勤怠がおかしい」「残業が多いのに成果が出ていない」と感じたら、まずは専門家にご相談ください。
私の経験上、疑惑は残念ながら事実であることが大半です。
当事務所では、元刑事の経験とノウハウを活かした「企業信用調査」「素行調査」により、動かぬ証拠を収集します。社内の膿を出し切り、健全な組織を取り戻すために。まずは事実を明らかにすることから始めましょう。
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