企業の人事・労務担当者、あるいは経営者の皆様、自社の従業員の「通勤交通費」について、しっかりと実態を把握できているでしょうか?
「たかが数百円のごまかしだろう」と甘く見てはいけません。交通費の不正受給は、会社に対する立派な犯罪行為です。
一日あたりの金額は微々たるものであっても、それが数ヶ月、数年と長期に渡れば、企業にとって見過ごすことのできない大きな損害額へと膨れ上がります。
本記事では、元刑事であり現在は探偵事務所を営む筆者が、交通費の不正受給のよくある手口や、企業が行うべき確実な交通費不正受給の調べ方、そして証拠を押さえた後の適切な対処法について詳しく解説します。
目次
交通費の不正受給は犯罪行為にあたる

まず大前提として認識すべきなのは、交通費の不正受給は単なる「社内ルールの違反」ではなく、刑法第246条の「詐欺罪」に該当し得る犯罪行為であるということです。
また、場合によっては業務上横領罪に問われる可能性もあります。
従業員側には「少し小遣い稼ぎをしているだけ」「みんなやっている」といった軽い気持ちがあるかもしれません。しかし、会社側から見れば、虚偽の申告によって会社の資金を騙し取られている状態です。
「片道数百円のごまかしだから、調査する労力の方が無駄だ」と考える経営者の方もいらっしゃいます。しかし、計算してみてください。
- 1日500円の不正受給 × 月20日出勤 = 月額10,000円
- 月額10,000円 × 12ヶ月 = 年間120,000円
- これが3年間続けば、なんと360,000円の損害になります。
もし社内に複数人の不正受給者がいれば、被害額は数百万円規模に上ることも珍しくありません。企業防衛の観点からも、決して見逃してはいけない不正行為なのです。
交通費の不正受給・よくある手口と実例
不正受給の手口は年々巧妙化していますが、元刑事の視点から見ると、いくつかの典型的なパターンが存在します。
実例①:引っ越したのに「住民票を移していない」
最も多いのが、実家や遠方の住所を会社に申請したまま、実際には会社の近くに引っ越しているケースです。
「住民票を移していない」ことを理由に、免許証などの身分証は遠方の住所のままであるため、書類上は遠くから通っているように見えます。実際には徒歩や自転車で通える距離に住んでおり、浮いた定期代を丸ごと着服する手口です。
実例②:「彼氏や彼女の家から通っている」
一人暮らしの家や実家を申請しているものの、実際には会社周辺に住んでいる「彼氏や彼女の家」に入り浸り、そこから出勤しているケースです。本人は「週末だけ自分の家に帰っているから嘘ではない」と言い訳をすることが多いですが、生活の実態がパートナーの家にある場合、正当な通勤経路とは認められません。
実例③:自転車や徒歩通勤なのに「電車通勤」で申請
「雨の日だけ電車に乗るから」などの理由で電車やバスでの通勤経路を申請しながら、晴れの日は毎日自転車や徒歩で通勤し、交通費を浮かせているパターンです。駐輪場の利用履歴や、本人の服装(スーツなのにスニーカーを履いている等)から発覚することがあります。
実例④:テレワーク(在宅勤務)と出社の二重取り
近年急増しているのが、テレワークと出社が混在する働き方での不正です。本来は「出社した日数分の実費精算」であるべきところを、定期券を購入したと偽って定期代を請求したり、逆に定期代を支給されているのに在宅勤務を行い、交通費を不当に得たりするケースです。
【実践編】交通費の不正受給の調べ方

では、企業はどのようにして不正を見抜けばよいのでしょうか。ここでは、具体的な交通費不正受給の調べ方をステップ別にご紹介します。
ステップ1:社内での書類・データ調査
まずは、怪しまれる従業員に気づかれないよう、社内にあるデータから矛盾点を探し出します。
- 定期券のコピー提出義務化: 定期券の券面コピーや、Suica・PASMO等の履歴印字の提出を求めます。
- 交通機関の遅延情報との照合: 申請している路線で大規模な遅延があった日、本人が定時に出社していれば「別のルートで来ている」あるいは「会社の近くに住んでいる」可能性が高くなります。
- 住所変更の確認: 住民税の納付先市区町村と、申請している住所に相違がないか確認します(ただし、住民票を移していない場合はこれで見抜けません)。
ステップ2:日常的な観察(勤怠・態度)
- 天候による変化: 大雨や台風の日に、申請ルート(例えばバス利用など)であれば絶対に濡れるはずなのに、ほとんど濡れずに出社してくる。
- 退勤後の行動: 退勤時、申請している最寄り駅とは逆の方向へ歩いていくことが多い。
ステップ3:【重要】確固たる証拠を集めるための「行動調査」
書類上の不備を指摘しても、従業員は「たまたま今日は違うルートで来た」「定期を忘れた」などと言い逃れをします。企業が厳正な処罰(懲戒処分など)を下すためには、言い逃れのできない客観的な証拠(写真や映像、行動記録)が不可欠です。
確実な調べ方として最も有効なのが、退勤後や出勤時の「尾行・張り込み」による実態調査です。 対象者がどこに帰り、翌朝どこから出社してくるのかを数日間にわたって記録することで、「彼氏・彼女の家から通っている」「自転車で通っている」という決定的な事実を押さえることができます。
企業はしっかりと証拠を集めて対処するべき
不正を疑った際、絶対にやってはいけないのが「証拠がないまま本人を問い詰めること」です。
確たる証拠なしに「不正受給をしているだろう」と追及すれば、本人が否定した際にそれ以上踏み込めなくなります。
最悪の場合、逆に「不当な疑いをかけられた」「パワハラだ」として、会社側が労働審判や訴訟を起こされるリスクすらあります。
証拠が揃った後の正しい対処法
確実な証拠(数日間の尾行記録、実際の居住地の写真、移動経路の記録など)が揃ったら、以下の手順で厳正に対処します。
1.事実関係の確認と面談
証拠を提示し、本人に事実を認めさせ、始末書や誓約書を書かせます。
2.過去に遡っての全額返還請求
不正が始まっていた時期を特定し、不当に得た交通費を一括で返還させます。
3.就業規則に基づく懲戒処分
会社の就業規則(懲戒規定)に則り、戒告、減給、悪質な場合は懲戒解雇などの処分を下します。
4.警察への被害届(刑事告訴)
金額が多額で本人が返還に応じない、あるいは極めて悪質な手口の場合は、詐欺罪や業務上横領罪として警察へ相談することも視野に入れます。
自力での調査には限界とリスクがある。プロの探偵に依頼を

ここまで「調べ方」を解説しましたが、社内の人間(上司や人事担当者)が自ら従業員を尾行することは、強くお勧めしません。
素人の尾行はすぐに対象者にバレて警戒されるだけでなく、相手から「ストーカー行為だ」「プライバシーの侵害だ」と訴えられる危険性があるためです。
安全かつ確実に、言い逃れのできない証拠を掴むためには、調査のプロである探偵事務所を活用することが企業にとって最善の選択です。
探偵は「探偵業法」に基づき、合法的に尾行や張り込みを行うことが認められており、労働審判や裁判でも証拠として採用される精緻な「調査報告書」を作成します。
元刑事が率いる当探偵事務所では、犯罪捜査で培った証拠収集能力を活かし、企業のコンプライアンスを守るための素行調査を数多く手掛けております。
「もしかして交通費を不正受給されているかも?」 そう感じたら、見て見ぬふりをして被害を拡大させる前に、まずは一度、専門家である私たちにご相談ください。
交通費を不正に受ける社員は別の不正を働くケースも珍しい事ではありません。調査中に別の不正が見つかることもあります。怪しい社員がいる場合はしっかりと調べ、適切な処分を検討しましょう。
総合探偵事務所アルシュ 船橋へのお問い合わせはコチラから。


















