「うちの会社に限って、まさか…」
そう思っていても、企業の不祥事や従業員による不正行為のニュースは後を絶ちません。横領、情報漏洩、経費の架空請求、就業時間の詐称…。これらの不正は、企業の信用失墜、経済的損失、そして組織全体の士気低下という計り知れないダメージを与えます。
特に、新しい人材を採用する面接の場は、未来の「不正リスク」を未然に防ぐための最初の、そして最も重要な防衛ラインです。
私は長年、刑事として多くの事件・不正に向き合ってきました。不正を働く人物には、表向きの経歴やスキルでは見えない、共通した隠れた特徴があることを知っています。
本記事では、その経験に基づき、企業の人事・採用担当者、経営者の皆様が「不正をする人」を採用前に見抜くための具体的なポイントと、組織を不正から守るための対策を、徹底的に解説します。
目次
採用前に知るべき「不正をする人」の心理構造、不正のトライアングルとは

不正行為は、特定の心理状態と環境が揃った時に発生しやすいことが、犯罪心理学や不正会計研究で明らかになっています。
その代表的なモデルが、「不正のトライアングル(Fraud Triangle)」です。
不正のトライアングルは、以下の3つの要素が揃ったときに不正が発生すると説明されています。そのため、採用面接では、これらの要素を間接的に見抜くことが重要です。
プレッシャー(動機)
金銭的な切迫した問題や、他人には言えない負債、または過度な成功願望や見栄などが不正の動機となります。「今すぐ何とかしなければならない」という精神的な追い詰められ方です。
機会(機会)
内部統制の不備、監視の目の甘さ、権限の集中など、「バレないだろう」という状況や仕組みがあることです。組織内のルールが形骸化していると、不正の機会を与えてしまいます。
正当化(倫理観の麻痺)
不正を犯す自分自身を「悪いことをしているわけではない」と納得させる論理です。「会社から正当な評価を受けていない」「会社のやり方が間違っている」「一時的に借りるだけだ」など、自己中心的な理屈を作り上げます。
元刑事が着目する!採用面接で見抜く「不正をする人」の隠れた特徴10選

これらの心理構造を背景に、元刑事の私が特に注目する、不正予備軍に見られがちな具体的な言動・態度の特徴を解説します。
金銭感覚の過度なアピールと不自然な生活水準
年収に見合わない高価なブランド品や過度な贅沢を匂わせる発言が多い場合、現在の収入でまかなえない裏の金銭的プレッシャーを抱えている可能性があります。
一貫性のない、誇張された自己PR
特に数字や実績に関する説明が過度に抽象的であったり、質問によって内容がブレる場合、経歴詐称や実績の架空計上を疑う必要があります。彼らは「自分を大きく見せる」ことに必死です。
「組織のルール」や「規範」に対する過度な軽視
「規則は破るためにある」「細かいことは気にしない」「成果を出すために手段は択ばない」といった発言は、正当化の傾向が強い証拠です。ルールを自分勝手に解釈し、自身の利益を優先する傾向があります。
前職の退職理由の「不透明性」と「他責」
前職を辞めた理由が極端に曖昧だったり、「上司が悪かった」「会社の方針が間違っていた」など、完全に他人のせいにしている場合、自身の問題点や失敗から目を背ける傾向、すなわち「正当化」の兆候です。
プレッシャーがかかった時の「極端な反応」
突発的で、論理的な思考を要する質問を投げかけた際、過度に攻撃的になる、言葉に詰まる、あるいは急に饒舌になるなど、精神的に不安定な反応を示すことがあります。
これは、隠し事や秘密を抱えているサインかもしれません。
過度な「権限」や「自由」を求める傾向
業務内容以上に「単独での業務遂行」「広範な決裁権」「監視されない環境」を強く要求する人は、「不正の機会」を作り出そうとしている可能性があります。
過去のトラブルを「武勇伝」として語る
過去の倫理的に問題がある行為や、際どいルール違反を、あたかも「機転の利いた行動」や「成功体験」のように語る人は、倫理観が麻痺している証拠です。
目の動きが不自然で、アイコンタクトが不安定
嘘をつく時、人は不必要なアイコンタクトを避けたり、逆に不自然に目を凝らしたりします。特に核心に迫る質問をした際の目の動きは、重要なヒントです。
細かすぎる、あるいは、ざっくりすぎる「計画性」
不正を計画的に行う人物は、自分の身を守るために、将来の計画やビジョンを異常なほど細かく、あるいは逆に具体性のない曖昧な言葉で語ることで、本質を隠そうとします。
対人関係の「極端な分断」傾向
前職での人間関係が希薄であったり、特定の人物とのみ異常に親密であったりするなど、人間関係に極端な偏りが見られる場合、組織への帰属意識が低く、不正行為への抵抗感が低い可能性があります。
【実践】採用面接で「不正する人」を見抜くための具体的な質問術とチェックリスト

面接官は、これらの特徴を踏まえ、候補者の本質的な倫理観や行動原理を引き出す質問を組み立てる必要があります。
倫理観と行動原理を探る「核心質問」
| 質問の意図 | 質問例 | 注目すべき回答の傾向 |
|---|---|---|
| 正当化の傾向 | 「もし、会社のルールが自分の業務効率を妨げていると感じたら、どうしますか?」 | 良い例: 「まず上司に相談し、ルールの改正を提案します。」 要注意例: 「ルールは無視して、自分のやり方で進めます。」 |
| プレッシャーへの対応 | 「あなたが最も追い詰められた、あるいは金銭的に困窮した経験と、それをどう乗り越えたか教えてください。」 | 良い例: 「節約や副業で対応し、家族や友人に相談しました。」 要注意例: 「詳細は言えません。でも、その時のことは今では解決済みです。(具体的な行動を避ける)」 |
| 責任感と他責 | 「前職で最も大きな失敗やトラブルの原因は何で、あなたはそこから何を学びましたか?」 | 良い例: 自分の行動を分析し、具体的な反省点を述べる。 要注意例: 「私のミスではないが、環境のせいで上手くいかなかった。」などと責任を転嫁する。 |
| 機会への意識 | 「もし、誰も見ていない状況で、会社の備品を私的に利用できるとしたら、どうしますか?」 | 良い例: 「利用しません。会社の資産は公私を分けるべきです。」 要注意例: 「緊急時なら仕方ないと思います。」(曖昧な正当化の余地を残す) |
必須チェックリスト(元刑事の視点)
- 前職の退職理由に論理的な一貫性があるか?
- 職務経歴書の記載内容と面接での説明に小さな矛盾がないか?
- 倫理的なジレンマに関する質問で、一瞬の戸惑いや目の揺れがあったか?
- 過去の金銭トラブルや借金に関する情報を過度に隠蔽しようとしていないか?
組織を不正から守る採用後の対策と環境整備
面接で完璧に見抜くことは不可能であるため、採用前または採用後の組織的な対策こそが最も重要になります。
強固な内部統制と三権分立
不正の「機会」を与えないために、業務の権限を集中させないこと(チェック&バランス)が不可欠です。例えば、経理担当者が支払承認権限も持つといった構造は避けましょう。
倫理規定(コード・オブ・コンダクト)の徹底
全従業員に対し、会社の倫理規定を徹底的に教育し、不正は絶対に許さないという企業文化を醸成します。そして、経営層自身がそれを実践することが最も重要です。
匿名性の高い内部通報制度(ホットライン)の整備
不正を早期発見する最も有効な手段の一つです。通報者の匿名性を完全に保証し、報復措置を厳禁とすることで、従業員が安心して不正の情報を上げられる環境を作ります。
定期的なモニタリングと監査
特に金銭や機密情報を取り扱う部署に対しては、定期的な抜き打ち監査やデータ分析によるモニタリングを実施します。これにより「不正の機会」を意識的に減少させます。
関連記事:採用前の対策!採用リスクを徹底排除!元刑事が語る「バックグラウンドチェック」の必要性と適切な進め方
まとめ
企業の成長は、信頼できる人材の上に成り立っています。不正を働く人物を採用してしまうことは、会社にとって致命的なリスクです。
採用面接は、単にスキルや経験を評価する場ではなく、候補者の人間性、倫理観、そして正当化の傾向・プレッシャーへの対処能力・責任感などを深く探る危機管理の場であることを再認識してください。
不正をする人の特徴に該当するような応募者には注意が必要です。
書類上の情報がどんなに素晴らしくても、それが真実でなければ意味がありません。候補者との面接だけで採用を決定するのではなく、時にはバックグランドチェック(前職調査)も検討しましょう。
元刑事としての知見が、貴社の強固な組織作りと健全な経営の一助となれば幸いです。
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