「横領の疑いがあるが、証拠が掴めない」 「社内でのハラスメント通報があったが、当事者の意見が食い違っている」
企業のリスク管理担当者や経営者の皆様、このような問題に直面した際、最初に行うのが「社内調査(ヒアリング)」ではないでしょうか。
しかし、警察の取り調べとは異なり、一般企業でのヒアリングには多くの制約があります。やり方を間違えれば、真実が闇に葬られるだけでなく、逆に「パワハラだ」「不当な取り調べだ」と訴えられるリスクさえあるのです。
私はかつて刑事として、数多くの被疑者と対峙し、現在は探偵として企業の不正調査に携わっています。その経験から言えるのは、「ヒアリングは準備が9割、技術が1割」ということ、そして「社内の人間だけで完結させることの限界」です。
この記事では、『社内調査におけるヒアリングのコツ』を、元刑事の視点からお伝えします。
真実を引き出すための具体的なテクニックを身に付けましょう!
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目次
社内調査のヒアリングを行う前に絶対に必要な3つの準備

いきなり対象者を会議室に呼び出してはいけません。刑事ドラマのような行き当たりばったりの聴取は、失敗の元です。まずは以下の3つを整えてください。
客観的証拠の確保(外堀を埋める)
ヒアリングは「自白」を得る場ではなく、「事実確認」の場です。 ログデータ、防犯カメラ映像、経費精算書、メール履歴など、動かぬ証拠をどれだけ手元に持っているかが勝負を決めます。 元刑事の視点から言えば、「証拠を突きつけるタイミング」こそが最大の武器です。最初から全てを見せず、相手の嘘と矛盾が生じた瞬間にカードを切るための準備をしておきましょう。
環境設定(心理的な場の支配)
ヒアリングを行う場所は、普段の業務スペースから離れた、静かでプライバシーが保たれる会議室を選びましょう。
- 座席配置
正面対面は圧迫感を与えます。「L字型」に座るか、少し斜めに位置取ることで、相手の警戒心をわずかに解くことができます。
- 記録係の同席
2名体制で行う事が望ましいです。1名は質問に集中し、もう1名は記録(および録音の管理)と、相手のノンバーバル(非言語)な反応を観察するためです。
シナリオの作成(フローチャート化)
「想定問答集」を作ってください。
- 正直に話した場合のルート
- 嘘をついた場合のルート
- 黙秘した場合のルート
これらをフローチャート化し、感情的にならず淡々と事実を確認できる道筋を作っておくことが重要です。
【実践編】真実を引き出すヒアリングのコツ・テクニック

準備が整ったら、いよいよ実践です。ここでは、私が警察時代から活用している、相手の心理を動かすヒアリングのコツを紹介します。
コツ1:ラポール(信頼関係)の形成から入る
いきなり「君、横領したね?」と切り込んではいけません。
まずは日常会話や業務の労いから入り、相手の警戒心を解きます。これを心理学用語でラポールと言います。 相手が「この人は自分の話を聞いてくれる」と感じない限り、核心部分は語られません。
平常時の話し方や仕草(ベースライン)を確認する意味でも、最初の5〜10分は雑談に使いましょう。
コツ2:質問は「オープン」から「クローズド」へ
質問には2種類あります。
- オープン・クエスチョン
「その時、どう思いましたか?」「何が起きましたか?」など、自由に語らせる質問。
- クローズド・クエスチョン
「はい」か「いいえ」で答えさせる質問。
最初はオープン・クエスチョンで相手にたくさん喋らせます。人は嘘をつくとき、物語の整合性を取るのに必死になります。自由に喋らせることで、必ず「矛盾」が生じます。 その矛盾点が見つかった段階で、クローズド・クエスチョンに切り替え、「Aと言いましたね?でもデータはBです。どちらが正しいですか?」と追い込んでいくのです。
コツ3:沈黙を恐れず、相手に埋めさせる
質問した後、相手が黙り込むことがあります。この時、質問者が耐えきれず「つまり、こういうこと?」と助け船を出してはいけません。 沈黙は、相手が葛藤しているサインです。
相手が気まずさに耐えきれず口を開くまで、じっと目を見て待ちましょう。その時に出てくる言葉こそが、真実に近いことが多いのです。
コツ4:ノンバーバル・コミュニケーション(非言語情報)を読む
『目は口程に物を言う。』この言葉を聞いたことがある方も多いですよね。言葉以外のサインに注目してください。目以外にも注目すべきところは沢山あります。
- 質問した瞬間に視線が右上を向く(構成・嘘を考えている可能性)
- 急に早口になる、または声のトーンが変わる
- 手遊びが増える、足を組み替える
- 特定の話題で口元を隠す
これらはストレス反応です。「その話題に触れられたくない」というサインを見逃さず、そこを深掘りしていくのがプロの技術です。
自社のみで行う社内調査(ヒアリング)の限界とリスク

ここまでテクニックをお伝えしましたが、あえて厳しいことを言います。一般社員や人事担当者が、プロのようなヒアリングを完遂するのは極めて困難です。そこには明確なリスクと限界があるからです。
「利益相反」と「情」の壁
社内調査員にとって、対象者は「同僚」や「部下」、時には「上司」です。 「まさか彼がそんなことを」「彼にも家庭があるし」という情が入り、追及が甘くなるケースが後を絶ちません。逆に、普段の人間関係が悪ければ「あいつならやりかねない」というバイアスがかかり、冤罪を生む可能性もあります。
法的リスク(パワハラ・強要)
「吐かせたい」という思いが強すぎて、長時間拘束したり、大声を出したりすれば、それは調査ではなく「監禁」や「強要」になることもあります。
後日、対象者から「無理やり自白させられた」と訴えられれば、会社側が圧倒的に不利になります。適法な範囲内で証言を引き出すには、高度な法的知識と経験が必要です。
証拠隠滅の猶予を与えてしまう
ヒアリングを行うということは、「会社が疑っている」と相手に知らせるのと同じです。 もしヒアリングで決定的な証言が得られなかった場合、相手はその足で証拠データを削除したり、口裏合わせを行ったりするでしょう。 一度失敗したヒアリングは、二度と取り返しがつかなくなってしまう危険もあるのです。
なぜ、調査のプロ(探偵)に依頼すべきなのか
社内調査で最も重要なのは「真実を明らかにすること」であり、「社内の人間だけで解決すること」ではありません。 重大な不正やトラブルが疑われる場合こそ、外部のプロである探偵事務所を活用すべき理由があります。
しがらみのない「完全な第三者」視点
私たちは対象者といかなる人間関係もありません。情やバイアスを一切排し、事実のみに基づいて調査を行います。この客観性こそが、後の裁判や懲戒処分において強力な説得力を持ちます。
ヒアリング以外の「裏付け調査」が可能
ここが最大の違いです。私たちはヒアリングだけでなく、素行調査(尾行・張り込み)や場合によってはデータフォレンジックなどを行い、ヒアリングだけでは決して出てこない「決定的な証拠」を掴むことができます。
「やっていません」とシラを切る相手に対し、社外での密会写真や不正の動かぬ証拠を提示できるのは、探偵ならではの強みです。
法的に有効な「調査報告書」の作成
調査結果は、弁護士監修のもと、裁判資料としても使用できる形式で報告書にまとめます。 万が一、解雇無効訴訟や損害賠償請求に発展した場合でも、会社を守るための強力な盾となります。
まとめ
社内調査のヒアリングは、心理戦です。 本記事で紹介した「準備」「質問の順序」「沈黙の活用」などのコツは、確かに有効です。しかし、相手が悪質な場合や、事案が深刻な場合、付け焼き刃のテクニックでは太刀打ちできません。
「社内でヒアリングしてみたが、結局うやむやになった」 「証拠不十分で処分に踏み切れない」
そうなってからでは遅いのです。 もし現在、社内の不正やトラブルへの対応に迷われているのであれば、まずは一度、私たちプロにご相談ください。 元刑事としての経験と、探偵としての調査力で、あなたの会社の「真実」を明らかにします。
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