企業の経営者様や人事・労務担当者様の中には、従業員の労災申請に対し、「本当に労災で休むほど重症なのだろうか…?」「まだ治っていないのだろうか…」このような疑念を抱いた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
労災保険制度は、業務中や通勤中の傷病に対して労働者を保護するための重要なセーフティネットです。しかし、この尊い制度を悪用し、休業補償などを不正に受給するケースが後を絶ちません。
労災の不正受給は、制度の根幹を揺るがすだけでなく、企業の経営に深刻なダメージを与える重大なコンプライアンス違反です。放置すれば、経済的な損失はもちろん、他の真面目な従業員の士気を下げ、組織全体の規律を乱すことにも繋がりかねません。
この記事では、多くの企業様からご相談をいただく探偵事務所の視点から、労災の不正受給が企業に与えるリスク、不正が発覚する典型的なケース、そして万が一疑念が生じた際の企業が取るべき具体的な対策について、踏み込んで解説します。
目次
巧妙化する労災の不正受給、その典型的な手口とは?
まず、労災の不正受給がどのような形で行われるのか、具体的な手口を知っておくことが対策の第一歩です。
ケース1:詐病・仮病による休業補償の不正請求
最も多いのが、ケガや病気を偽ったり、大げさに申告したりして、本来は就労可能であるにもかかわらず休業し、休業(補償)給付を不正に受け取るケースです。
例えば、「腰を痛めて歩けない」と申告しながら、実際には趣味のスポーツを楽しんでいたり、旅行に出かけていたりする事例が典型です。
ケース2:通勤災害・業務災害の偽装
プライベートな時間や場所で発生したケガであるにもかかわらず、「通勤途中に転んだ」「社内で重い荷物を持った際に負傷した」などと偽り、労災申請を行う手口です。事故の目撃者がいない状況を悪用するケースが多く見られます。
ケース3:既存の持病や過去のケガを業務上のものと偽る
以前から患っていた持病(例:椎間板ヘルニアなど)が、業務が原因で悪化したと偽って申告するケースです。業務との因果関係を証明することが難しい点を逆手に取った悪質な手口と言えます。
これらの不正行為は、企業の安全配慮義務違反を問われる原因ともなり、企業側が使用者責任を追及されるリスクもはらんでいます。
労災の不正受給が企業に与える「4つの深刻なリスク」
「従業員一人の不正受給くらい、大した問題ではない」と考えてはいないでしょうか。その考えは非常に危険です。一つの不正が、ドミノ倒しのように企業全体を蝕んでいく可能性があります。
経済的損失の拡大
労災保険の給付は国から行われますが、労災が頻発したり、不正受給によって保険利用が増えたりすると、企業の労働保険料率(メリット制)が上昇する可能性があります。これは、長期的に企業のキャッシュフローを圧迫する要因となります。また、休業する従業員の代替要員を確保するための採用・人件費コストも発生します。
組織全体の士気低下と規律の崩壊
一人の不正を許す職場環境は、他の真面目に働く従業員のモチベーションを著しく低下させます。「真面目に働くのが馬鹿らしい」という空気が蔓延し、生産性の低下や離職者の増加を招きかねません。組織の規律が乱れ、健全な企業文化が崩壊するきっかけとなり得ます。
社会的信用の失墜
労災の不正受給が外部に漏れた場合、「コンプライアンス意識の低い会社」「従業員管理ができていない会社」というネガティブなレッテルを貼られてしまいます。取引先や顧客からの信用を失い、ブランドイメージが大きく損なわれるリスクがあります。
法的リスクと使用者責任
不正受給が発覚した場合、労働者は受給した保険給付費の全額または一部を返還する義務が生じます。さらに、悪質なケースでは、返還額に加えて最大でその2倍の金額(合計3倍)が徴収されることもあります。また、刑法の詐欺罪(刑法246条)に問われ、10年以下の懲役が科される可能性もある重大な犯罪行為です。
万が一、企業が不正の事実を黙認、あるいは加担したと判断された場合、詐欺罪の共犯として刑事責任を問われる可能性もゼロではありません。
また、労働基準監督署からの厳しい調査や指導を受けることになり、その対応に多大な時間と労力を割かれることになります。
なぜバレる?労災の不正受給が発覚する典型パターン5選
不正はいつか必ず露見します。実際に、どのようなきっかけで不正受給が発覚するのでしょうか。
同僚や知人からの内部通報
最も多いのが、同僚からの情報提供です。「休んでいるはずなのに、パチンコ店で見かけた」「海外旅行に行っているらしい」といった通報が、労働基準監督署や会社に寄せられるケースは少なくありません。
SNSへの不用意な投稿
本人は軽い気持ちでも、SNSへの投稿は不正を暴く有力な証拠となり得ます。休業中に趣味のフットサルを楽しむ様子や、海外旅行を満喫する写真をFacebookやInstagramに投稿し、それが発覚の引き金になるケースが急増しています。
労働基準監督署による調査
労働基準監督署は、労災認定や保険給付に関して、定期・不定期に実態調査を行います。本人や関係者へのヒアリング、医療機関への照会などを通じて、申告内容と実態に矛盾がないか厳しくチェックしており、その過程で不正が発覚します。
主治医との連携による矛盾の発覚
医師は、患者の症状の経過を専門家として注視しています。本人が申告する症状と、実際の回復具合に明らかな乖離がある場合や不自然な言動が見られる場合、医師が不審に思い不正が発覚することがあります。
探偵事務所など専門家による調査
企業が不正の疑いを持ち、確証を得るために探偵事務所に調査を依頼するケースです。行動調査(尾行・張り込み)によって、休業中にもかかわらず活発に活動している決定的な証拠が押さえられ、不正が確定します。
不正受給を疑った際の企業の初期対応と「絶対NG」な行動
従業員の不正受給を疑ったとき、担当者様は冷静な対応を求められます。感情的な行動は、逆に企業の立場を危うくする可能性があるため、細心の注意が必要です。
【まずやるべきこと】
客観的な事実の記録
疑念を抱いたきっかけ(同僚からの報告、SNSの投稿など)を時系列で正確に記録します。報告者の氏名や日時、具体的な内容などを文書で残しておくことが重要です。
専門家への相談
弁護士や社会保険労務士、そして我々のような調査の専門家である探偵事務所に、早い段階で相談してください。法的なリスクを回避し、最善の対応策を検討することができます。
【絶対にやってはいけないNG行動】
本人への直接的な詰問や尋問
確たる証拠がない段階で本人を問い詰めると、「パワハラだ」と反撃されたり、警戒して証拠を隠されたりするリスクがあります。
自社での無計画な尾行や監視
調査の素人である社員が尾行や監視を行うと、対象者に気づかれてしまうだけでなく、プライバシー侵害やストーカー規制法に抵触するなど、企業側が法的責任を問われる重大なリスクを伴います。
証拠がない状態での退職勧奨や解雇
不正の事実を客観的に証明できる証拠がないまま懲戒処分を行うと、不当解雇として訴えられ、企業の立場が著しく悪化します。
なぜ探偵事務所なのか?不正受給調査におけるプロの役割
「不正の証拠を掴む」と一言で言っても、それは決して簡単なことではありません。特に、法的に有効な証拠を、合法的な手段で収集するには、専門的な知識と技術が不可欠です。
自社での調査が困難かつ危険である理由は、前述の通り法的リスクが非常に高いからです。では、なぜ探偵事務所に依頼するメリットがあるのでしょうか。
圧倒的な調査力と証拠収集能力
我々探偵は、調査対象者に気づかれることなく、その行動を克明に記録する訓練を受けたプロフェッショナルです。最新の調査機材を駆使して裁判資料としても通用する客観的で質の高い証拠を収集し報告書(映像や写真付き)の作成をします。例えば、「歩行困難」と診断されている対象者が、健常者と変わらずに歩き、重い荷物を運んでいる様子などを映像で記録します。
法令遵守によるリスク回避
探偵業は「探偵業法」という法律に則って業務を行っています。我々は、プライバシー権などの各種法令を遵守した合法的な調査手法を熟知しており、企業様が違法行為に加担するリスクを完全に排除します。安心して調査をお任せいただけます。
問題の早期解決と損害の最小化
不正の疑念を抱えたまま時間が経過すると、企業の経済的・精神的負担は増大する一方です。迅速な調査によって事実関係を確定させることで、企業は労働基準監督署への報告や本人との交渉、懲戒処分の検討といった次のステップへ速やかに移行できます。これにより、問題の長期化を防ぎ、企業の損害を最小限に食い止めることが可能になります。
労災不正受給の調査で探偵に依頼した場合の費用相場
実際に探偵に調査を依頼する場合、どのくらいの費用がかかるのでしょうか。調査内容や期間によって変動しますが、一般的な費用相場を知っておくことで、検討がしやすくなります。
- 調査員の人数: 通常2〜3名体制
- 料金体系: 時間制プラン(1時間あたり1.5万円〜)や、パック料金(10時間14万円〜)など
- 費用相場: 証拠取得までの総額として、30万円〜80万円程度がボリュームゾーンとなります。
もちろん、これはあくまで目安です。多くの探偵事務所では、状況をヒアリングした上で無料で見積もりを作成しています。
不正受給によって会社が被る長期的な損失を考えれば、問題の早期解決に必要な投資と捉えることもできます。まずは一度、無料相談を活用して具体的な見積もりを取ることをお勧めします。
※総合探偵事務所アルシュの調査費用はコチラのページを参考に。
不正が生まれる土壌を作らない!企業が今すぐ取り組むべき予防策
問題が発生した後の対処も重要ですが、それ以上に大切なのは、不正が起こりにくい職場環境を構築することです。
就業規則の整備と周知徹底
労災の不正申請や詐病が懲戒処分の対象となることを、就業規則に明記し、全従業員に周知徹底します。
「不正をすれば厳しく罰せられる」という明確なメッセージを発信することが、不正の抑止力となります。
コミュニケーションの活性化
従業員が一人で不満や悩みを抱え込まないよう、日頃から円滑なコミュニケーションを心がけ、風通しの良い職場環境を作ることが重要です。産業医やカウンセラーとの連携体制を整えることも有効です。
労災発生時の初期対応フローの確立
労災が発生した際に、誰が、いつ、どこで、どのような状況で、何を目撃したかなどを正確に記録する(5W1H)社内ルールを確立し徹底しましょう。事実確認を客観的かつ迅速に行う体制が、安易な不正申請を防ぎます。
まとめ
労災の不正受給は、単なる従業員個人の問題ではなく、企業の存続を揺るがしかねない重大な経営リスクです。一つの不正を放置することが、組織全体のモラルハザードを引き起こし、取り返しのつかない事態を招くこともあります。
もし、従業員の労災申請に少しでも不審な点を感じたら、決して一人で抱え込まず、また、無計画に行動することなく、まずは我々のような調査の専門家にご相談ください。
私たちは、法を遵守した確実な調査を通じて、企業様が毅然とした対応を取るための「動かぬ証拠」をご提供します。秘密厳守はもちろん、その後の弁護士や社会保険労務士のご紹介など、問題の根本的な解決までワンストップでサポートさせていただきます。
企業の健全な未来を守るために、今、勇気ある一歩を踏み出すことが重要です。